コラム
2025-08-27
大規模言語モデル(LLM)とは?仕組みや役割を解説
大規模言語モデル(LLM)は、生成AIを支える中核的な仕組みとして注目されていますが、仕組みや具体的な活用事例については知らない方も多いのではないでしょうか。今回は、LLMの基本から進化の歴史、活用事例、課題までを初心者にもわかりやすく解説します。
目次
大規模言語モデル(LLM)とは
大規模言語モデル(LLM)とは、膨大な文章を学習し、文脈をもとに自然な応答を行ったり、新しい文章を作り出したりできる仕組みです。私たちが普段使っている生成AIの多くは、この大規模言語モデルを基盤としています。
AIが質問に答えたり文章を書いたりできるのは、大規模言語モデルが膨大な文章から言葉の使い方や文脈に応じたパターンを学習しているからです。
言語モデルとは

そもそも言語モデルとは、文章の中で「どの単語が次にくるか」を予測するための仕組みです。この「次の単語を予測する力」は、文章を作るうえで非常に重要です。
例えば「私はパンを〜」という文章があったとき、「食べました」や「買いました」といった言葉が続く確率は高く、「泳ぎました」や「計算します」といった言葉は不自然です。
このように、文脈をもとに次に来る単語の出現確率を予測し、自然な文章を作り出すのが言語モデルの役割です。そして、この仕組みを大規模なデータと計算資源を使って進化させたものが、大規模言語モデル(LLM)です。
3要素の大規模化
大規模言語モデルと従来の言語モデルとの違いは、より長い文脈を把握し、一貫した自然な応答ができる能力にあります。この進化を支えているのが、以下の3つの要素の大規模化です。
大規模化した要素
・計算量(使用する演算資源や処理能力)
・データ量(学習に使われるテキストデータの規模)
・モデルパラメータ数(モデル内部の調整可能な数値の総量)
これらの要素を大規模化することで、処理できる情報の幅を広げ、より自然で高精度な言語生成を実現できるようになりました。大規模言語モデルの登場は、言語モデルの歴史における一大転換点といえるでしょう。
大規模言語モデルと自然言語処理(NLP)

大規模言語モデルと深く関係する分野に、「自然言語処理(NLP)」があります。
自然言語処理とは、コンピュータが人間の言葉を理解・解釈・生成する技術です。具体的には、機械翻訳や感情分析、テキストの要約、質問応答など、言語に関わる幅広い処理を含みます。
大規模言語モデルはNLP分野において、深層学習(ディープラーニング)をベースとした手法であり、大量のテキストと高度なモデル構造(例:Transformer)を用いて、文脈をより深く理解し自然な文章を生成できる点が特徴です。
つまり、自然言語処理が「言語を扱うAI技術全体」を指すとすれば、大規模言語モデルはその中でも、より高精度かつ大規模な処理を実現する進化系といえるでしょう。ただし、最近では大規模言語モデルの性能向上により、従来は分かれていた両者の違いが徐々に曖昧になりつつあります。
大規模言語モデル活用の一手法「ファインチューニング」とは
大規模言語モデルは、膨大なデータをもとに汎用的な言語理解能力を持つように訓練されていますが、実際の業務や特定のタスクにそのまま使うには精度や文脈が足りないケースがあります。
そこで重要になるのが「ファインチューニング」と呼ばれる工程です。ファインチューニングには「微調整」という意味があり、一度学習を終えた大規模言語モデルに対して、新たなデータを与えて再調整を行うプロセスを指します。
例えば、法律文書や医療記録といった専門領域のテキストを使って追加学習させると、より特定分野に特化した応答が可能です。汎用的な能力に加えて、特定の業務や目的に合わせた精度の高い運用が実現できます。
近年では、プロンプトの工夫によって出力を制御する「プロンプト設計」や、外部データベースと連携して情報の精度や最新性を高める「RAG(検索拡張生成)」といった手法も広く活用されており、ファインチューニングはそうした複数あるアプローチの一つとして位置づけられています。
目的やリソースに応じて、最適な手法を選び組み合わせることが、大規模言語モデルを業務に効果的に活用する鍵となります。
生成AIとの違い

生成AIとは、過去に学習したテキスト・画像・音声・動画などをもとに、内容や文脈に応じた最適なパターンを組み合わせて出力する人工知能のことを指します。コンテンツを“生成する”という機能に特化しており、近年ではビジネスやクリエイティブ分野でも活用が急速に広がっています。
一方、大規模言語モデル(LLM)は、生成AIの中でも言語生成を担うモデルの一分野であり、自然言語の生成に特化したモデルです。生成AIには、画像・音声・テキストなど複数の情報形式を統合して処理するマルチモーダルなモデルも含まれます。こうしたマルチモーダルな生成AIにおいて、言語による出力を担う大規模言語モデル(LLM)は、その中枢として重要な役割を果たしています。
生成AIの仕組みについて詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
ChatGPTと大規模言語モデル
ChatGPTは、大規模言語モデルを活用して作られた対話型のAIです。大規模言語モデルを利用したサービスの1つがChatGPTと考えるとよいでしょう。
大規模言語モデルは、文章の要約や分類、翻訳など、幅広い言語タスクに対応できる基盤技術です。一方で、ChatGPTはその中でも「対話」に特化して開発されています。質問に答えたり、相談にのったりと、対話を前提とした使い方に最適です。
大規模言語モデルの仕組み

大規模言語モデルは、人間の言葉を理解し、自然な文章を生成するために、複数のステップを通じて言語処理を行います。ここでは、大規模言語モデルの基本的な仕組みを5つに分けて見ていきましょう。
大規模言語モデルの5ステップ
1.トークン化
2.ベクトル化
3.ニューラルネットワークによる学習
4.文脈理解
5.デコード
①トークン化
トークンとは、単語・記号・句読点など、意味のある最小のまとまりを指します。トークン化は、コンピュータが言語を数値データとして扱いやすいように、文章をトークンに分解する仕組みです。
②ベクトル化
次に、分割されたトークンを数値化する工程がベクトル化です。トークン化された言語のままでは、コンピュータが意味を理解できないため、数値ベクトルとして表現し、言葉の意味や文脈を解析できるようにします。
③ニューラルネットワークによる学習
数値化されたデータは、ニューラルネットワークを通して解析・学習されます。
ニュートラルネットワークとは、人間の脳を模した多層構造のモデルです。過去数十年にわたるAI研究の歴史の中で発展し、大きな進化を遂げました。
ニュートラルネットワークは、データを学習に適した形に変換・調整し、トークン同士の関係性やニュアンスを学習して、言語を扱うための基盤を形成します。
④文脈理解
大規模言語モデルにおいて、単語ではなく前後の文脈を踏まえて意味を把握する「文脈理解」は、自然な言語処理に不可欠です。例えば「かみを切った」という文だけでは、「紙」なのか「髪」なのか判断に困りますが、「美容室でかみを切った」という文なら、「髪」と解釈できます。
大規模言語モデルが文脈を理解する仕組みは、単語のつながりだけを見ていた従来のモデルとの大きな違いです。
⑤デコード
大規模言語モデルの5ステップにおいて、最後に行われるのがデコードです。学習した内容をもとに、最も適切な語やフレーズを選び、人間が理解できる自然な文章として出力します。
得られた数値データから、最も高い確率で適切と判断された単語やフレーズを選び出して文として構築し、自然な言葉でやり取りできる状態にする仕組みです。
大規模言語モデルの歴史

大規模言語モデルは、自然言語処理(NLP)の技術として登場し、AIの進化とともにその役割と影響力を大きく変えてきました。以下では、大規模言語モデルの歴史を4つのフェーズに分けて紹介します。
第0フェーズ(~2017):基礎技術としての言語モデル
2017年以前の大規模言語モデルは、自然言語処理の技術の1つといった位置づけでした。主に使われていたモデルは、RNNやLSTM、seq2seqです。これらは、文脈は捉えられるものの、長文では初期情報が失われやすく、AI全体での存在感はまだ限定的でした。
第1フェーズ(2017~2020):Transformerの登場による急成
2017年、Googleの研究者らが発表した画期的な深層学習モデルがTransformerです。これにより、自然言語処理の精度と効率が飛躍的に向上して、長文でも前後のつながりを理解できるようになりました。さらに、BERTやGPTといったモデルが誕生し、AI分野全体で言語処理が中心的な役割を担うようになります。
第2フェーズ(2020~2022):言語モデルが幅広い用途に対応
GPT-3の登場により、大規模言語モデルは文章生成、質問応答、要約など幅広いタスクに対応可能な汎用性の高いAIモデルとして注目されるようになりました。さらに、コード生成や検索技術との統合など、他分野との接続も進み、AIで使われる多くのモデルの中でも中核的な存在へと変貌を遂げます。
第3フェーズ(2022~):視覚・聴覚・動作を統合するマルチモーダル化
近年、 GPT-4V、Whisper などに加え、Gemini や GPT-4o など、画像・音声・動画をリアルタイムで統合処理するマルチモーダルAIが登場しました。大規模言語モデルが中核となり、視覚や聴覚、動作など異なる知覚情報を同時に理解・生成し、より自然で双方向のやり取りを実現しています。
大規模言語モデルを活用した生成AIの活用事例
大規模言語モデルは、既に私たちの暮らしや仕事のさまざまな場面に活用されています。ここでは、大規模生成モデルの代表的な活用分野を5つ紹介します。
ビジネス支援

大規模言語モデルは、文章の自動生成や要約、メールの下書き作成などに活用されています。議事録の自動作成や業務マニュアルの生成でも導入が進んでいます。また、カスタマーサポートにチャットボットを導入すると、コストを削減しながら24時間対応が可能になります。
教育・学習支援

質問に答えるAIチューターや、個別の学習進度に合わせた復習アプリなども大規模言語モデルを活用したものです。自然な言葉で解説できるため、学習者の理解をサポートする仕組みとして注目されています。
プログラミング支援

大規模言語モデルは、コードの自動補完やバグの指摘、自然言語でのコーディングサポートなど、開発効率を上げるためのツールとしても利用されています。GitHub Copilotなどが代表例です。
医療・研究

論文の要約、症例情報の整理、診断補助など、専門性の高い領域でも大規模言語モデルの活用が始まっています。科学分野では、文献検索や研究ノートの作成支援などにも利用され、研究者の作業を効率化する存在です。
また、過去の膨大な研究の歴史を参照できるため、新たな知見の発見や、研究動向の把握にも貢献しています。
大規模言語モデルの課題

大規模言語モデルは多くの場面で活用が進んでいますが、その影響力の大きさゆえに、慎重な利用が求められます。ここでは、大規模言語モデルの4つの課題を紹介します。
ハルシネーション
ハルシネーションとは、事実ではない情報をもっともらしく出力してしまう現象です。大規模言語モデルは、学習していない内容でも、それらしい文章として生成することがあり、ユーザーに誤情報を出力するおそれがあります。
学習データの偏り
大規模言語モデルはインターネット上のデータを学習しているため、元データに偏見や差別が含まれていると、それを反映した出力になることがあります。公平性や中立性を保つためには、大規模言語モデルを活用する際に、学習データの選定と改善が必要です。
なお、このほかにも活用方法やユーザーの使い方によって生じるリスクもあります。たとえば、プロンプトインジェクションによる意図的な操作や、著作権・プライバシーの懸念など、技術面だけでなく運用や利用時の注意も欠かせません。
生成AIのビジネス活用ならロイヤリティ マーケティングへ
大規模言語モデルの進化は、生成AIの可能性を大きく広げました。仕組みや注意点を理解したうえで、どのように自社業務に応用するかが重要です。
共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を運営する弊社は、大規模言語モデルの進化によって広がった生成AIの可能性を、マーケティング領域で実践的に活用しています。
弊社では、価値観クラスター「PERSONA+」の情報を生成AI(ChatGPTの「マイGPT」)に試験的に組み込み、対話型ペルソナのプロトタイプを作成しました。ユーザーとの会話を通じて理解を深め、マーケティング施策に活用できる可能性を感じられる結果となりました。
また、Pontaデータや企業保有データを活用した分析支援・アナリティクスサービスの提供を通じて、顧客理解をもとにした戦略的なAI活用を支援しています。
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