コラム
2025-10-28
PPM分析とは?具体的なやり方と目的、メリットについても解説
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析は、複数の事業や製品群を抱える企業が、限られた人員・資金・時間をどこに投じるべきかを決めるための古典にして王道のフレームワークです。 今回は、PPM分析の方法や注意点について詳しく解説します。
目次
PPM分析の骨組み:2つの軸で4分類する
PPM分析とは事業・製品を評価し資源配分の方針を定める際に、「市場成長率」と「相対的市場占有率」の2軸を用いる分析方法です。PPM分析において各事業は花形、金のなる木、問題児、負け犬の4カテゴリーに整理されます。
縦軸:市場成長率(Market Growth Rate)

市場成長率とは、対象市場がどの程度のスピードで拡大・縮小しているかを示す指標です。成長率が高い場合、新しい需要が生まれていることを意味しますが、低い場合は、市場が成熟・縮小フェーズにあり、新規の伸びは限定的です。
算出式:(当期市場規模−前期市場規模)÷前期市場規模×100(%)
または、当期市場規模 ÷ 前期市場規模 の比で簡便に見ることもあります。
データ源:公的統計、業界団体の公表資料、民間調査レポートなど。
横軸:相対的市場占有率(Relative Market Share)
市場占有率とは、業界全体に対してどれくらいのシェアを占めているかを示す指標です。
算出式:自社の売上÷業界全体の売上×100(%)
備考:上場企業は有価証券報告書などでデータが参照しやすい一方、非上場企業の比率が高い市場では、市場データを得ることが難しいケースが少なくありません。相対的市場占有率とは、自社のシェアを市場における競合トップ企業のシェアと比較し、自社の競争優位性を測る指標です。
算出式:自社の売上高÷トップ企業の売上高
(または、業界トップ企業に対する自社のシェアの比率)
備考: 上場企業は有価証券報告書などでデータが参照しやすい。一方、非上場企業の比率が高い市場では、市場データを得ることが難しいケースが少なくありません。
4象限の読み方と基本戦略
PPM分析の全体像

PPM分析の4象限は「市場成長率」と「相対的市場占有率」の二軸を組み合わせて区分され、象限ごとに固有の特性と戦略上の意味を備えています。PPM分析を実施すれば自社の立ち位置を把握できます。
花形(Star)
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市場成長率:高い 相対的市場占有率:高い
PPM分析における花形は、成長市場で高いシェアを誇る事業や製品を指します。伸びしろが大きく将来性も見込めますが、参入企業が多く競争が過熱しがちです。そのため、シェアを守り拡げるには、継続的な資金・リソース投入が欠かせません。
積極的に投資を実施し、競合との競争に勝っていくことが重要です。将来的には「金のなる木」となることが期待されるポジションです。
戦略例: 積極的な設備投資や販促活動に注力します。
金のなる木(Cash Cow)

市場成長率:低い 相対的市場占有率:高い
PPM分析における金のなる木は、成熟市場で高いシェアを持ち、安定的に多額のキャッシュフローを生み出す事業や製品です。市場の成長が鈍化しているため新規参入者が少なく、安定した利益が得やすい反面、将来の成長にはあまり期待ができません。
戦略例: 投資自体は最小限に抑えてキャッシュを回収し、そのキャッシュを「花形」や「問題児」に投資するなど、他の成長分野へ戦略的に振り分けることが重要です。
問題児(Problem Child)

市場成長率:高い 相対的市場占有率:低い
PPM分析における問題児は、成長市場に位置するものの、シェアが低い事業や製品です。将来の伸びは見込めるものの、現状のシェアが小さいため収益化は難しく、競合も多くて競争が厳しいため、赤字に陥るリスクが高まります。
多くの企業で新規事業に取り組む際、最初に着手するのがこの段階です。ここから事業を育成し、看板事業へと成長させて独立した柱として定着させられるかが、成功のカギとなります。
戦略例: 投資対象を絞り込み、「選択と集中」で勝てる見込みがある事業に資源を集中させます。または、収益改善の余地があるかを精査したうえで早期の撤退を検討し、失敗を最小限に抑えます。
負け犬(Dog)

市場成長率:低い 相対的市場占有率:低い
PPM分析における負け犬は、成熟期または衰退局面の市場でシェアも小さく、キャッシュフローの創出力が弱い事業・製品に該当します。収益化が難しく将来性も乏しいため、放置すると赤字化し、経営全体の足かせとなる恐れがあります。
戦略例: 可能な範囲で利益を確保しつつ、撤退や売却など早期の意思決定を検討します。
例えば、当該事業を売却して得た資金を「花形」や「問題児」へ再配分し、成長分野への投資に振り分けて企業成長につなげる戦略が考えられます。
PPM分析の主なメリットとデメリット

PPM分析で得られる7つの効用

PPM分析の実施は多様な目的の実現につながります。そして経営面において以下の通りのメリットを享受できます。
1.直感に頼らない現状把握
PPM分析は市場成長率と相対的市場占有率という2軸によって、事業群の現在地を客観的に可視化します。PPM分析は声の大きさや社内政治に左右されにくく、合意形成の土台になります。
2.将来を見据えた投資判断
PPM分析では、短期的な損益だけでなく、将来の市場性や競争優位性を踏まえた意思決定ができます。PPM分析は短期損益の偏重から脱却するための分析手法です。
3.投資と撤退の線引きが明確化
PPM分析によって投資領域(集中/縮小/撤退)が整理され、ROI最大化に向けた資源配分が実現します。
4.全社リソースの集中投入
PPM分析は優先順位の可視化を実現し、人員・広告・開発・設備の分散投資や重複コストを抑制し、集中投資を可能にします。
5.ポートフォリオの戦略運用
「金のなる木」で稼いだ資金を「問題児」へ投じて「花形」化する、といった内部資金循環の設計を具体化できます。
6.環境変化の早期検知
PPM分析は市場成長率を定点観測することで、成長→成熟→縮小のフェーズ転換の兆しを早期に検知できます。これにより、戦略的な意思決定のタイミングを逃しにくくなります。
7.意思決定の透明性向上
PPM分析はデータを図表で共有できるため、経営会議や部門横断の議論をスムーズにします。データに裏打ちされた説明責任(アカウンタビリティ)を果たすために実施できます。
PPM分析の限界と注意点

PPM分析はきわめて有効なフレームワークですが、万能ではありません。活用に際しては、いくつかの留意点やデメリットをあらかじめ把握しておく必要があります。
既存事業の現状しか映さない
PPM分析はゼロ→イチの新規事業評価には向きません。製品ライフサイクルや規模の経済が前提のため、未形成市場については別の分析が必要です。
事業間のシナジーを評価しづらい
共通ブランド・共通技術・共通販路など、単体評価では測れない相互作用は別途分析が必要です。PPM分析の結果だけで負け犬を即撤退と判断すべきではありません。
定性的な価値を拾いにくい
ブランドの強さ、設計思想、キーパーソン、組織学習能力といった数値化しづらい勝因はPPM分析では可視化されません。現場知見や他手法の補完が必須です。
新市場・ニッチはデータが薄い
PPM分析において市場規模・シェアが曖昧だと前提数値が推定になり、誤誘導のリスクが上がります。破壊的イノベーションの兆しは捉えにくいという面があります。
静的分析ゆえに陳腐化が早い
一度PPM分析を実施して放置すると、環境変化から取り残されます。年1回以上の更新や、重要イベント時の臨時見直しを運用に組み込むことが重要です。
外部環境の変化は別枠で管理
規制変更、為替・金利変動などはPPM分析の評価対象外です。シナリオ分析・リスク評価・感応度分析をPPM分析に併用し、意思決定の幅を確保しましょう。
PPM分析導入の手順
PPM分析は、以下の手順で進めていきます。
STEP1:対象スコープの定義とデータ収集

データ粒度は、事業部、製品ライン、地域など、意思決定の単位に合わせましょう。粗すぎても細かすぎても、判断がブレることにつながります。
PPM分析で収集するデータ
自社側:売上、数量、粗利率、販管費、投資額など
市場側:総市場規模の推移、主要プレイヤーのシェア(または売上)など
競合側:決算資料、業界レポートなど
公的統計、業界団体の公表資料、民間リサーチなどを組み合わせ、数字の整合性を取ることがコツです。
STEP2:市場成長率を算出

次に、市場成長率を求めます。業界特性により、成熟業界では5%でも高いとみなすなど、柔軟に対応しましょう。
STEP3:相対的市場占有率を計算

そして、相対的市場占有率を算出します。リーダー交代が頻発する市場では、安全域を設定する選択も視野に入れましょう。
STEP4:マトリックスに配置(バブルサイズは売上規模で表現)
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マトリックスに配置し、事業を可視化します。縦軸=成長率、横軸=相対シェアでプロットしましょう。バブルのサイズは事業の売上高で表現するのが一般的です。
STEP5:競合との相対的位置も評価

PPM分析においては、例えば同じ「問題児」でも独自規格などがあれば投資価値は低くないといえるでしょう。また「金のなる木」でも、代替技術の台頭が近いなら回収を急ぐべきケースもあります。
座標だけで結論を出さず、事業の文脈と仮説で補正するのが現実的です。
ExcelでつくるPPMチャート:製造業の場合
電動工具を複数扱う企業を例に、ExcelでPPM図を描く手順をまとめます。
①入力表の用意

製品名、市場成長率、相対シェア、売上(=バブルサイズ)を列で整備しましょう。必要に応じて粗利率や投資額も追加してください。
②バブルチャート挿入

入力したデータ全体を範囲選択し、右下に表示されるボタンを押します。続いて[グラフ]タブを開き、[バブル]を選択してください。
③軸と補助線の整形

成長率と相対シェアの基準に補助線を引き、四象限を明示しましょう。
④ラベル表示と注記

各バブルに製品名を表示し、混み合う箇所は位置を微調整します。象限名(花形/金のなる木/問題児/負け犬)の注記も配置しましょう。
⑤グラフの読み取り

「花形」に位置する製品には、供給能力や品質のボトルネック解消に投資を実施し、販路強化やアフターサービスも強化します。「金のなる木」については、プロセス改善で効率的に運用できるようにしましょう。
「問題児」については、差別化の源泉(作業性、耐久性、静音、ブランド等)を特定し、資源を集中させます。「負け犬」については維持コストを最小化し、OEM化・売却・段階撤退など、早期に出口戦略を検討しましょう。
PPM分析の運用:PDCAに組み込む
PPM分析は実施して終わりではなく、PDCAサイクルに組み込むことが重要です。
頻度

PPM分析は最低でも年1回実施しましょう。大型参入、規制変更、為替急変、原材料価格ショックなど、大きな環境変化が起きたら臨時でアップデートを実施しましょう。
管理指標

事業の象限ごとに、以下のような管理指標を設定しましょう。
花形:シェア維持率、粗利率・供給制約の改善度、追加投資のROI
金のなる木:キャッシュ創出額、コスト率の維持、投資効率の向上
問題児:選定テーマ数の絞り込み、勝てる事業への資源集中度
負け犬:縮小・撤退計画の進捗、固定費の削減率
他手法との組み合わせで精度を上げる
PPM分析の意思決定の解像度を上げるには、以下のような補助的なフレームワークが必要です。
SWOT分析

SWOT分析とは、現状把握・戦略立案に役立てるためのフレームワークです。
定性の深掘りにより、PPM分析で見えにくいブランド、技術、人材の価値や、外部の追い風/向かい風を具体化できます。「負け犬」に見える事業の再生余地を発見できることもあります。
3C分析

3C分析とは、顧客の質的変化、競合の手の内、自社資源の適合度を立体的に把握できる分析手法です。PPM分析の結果に対し、「なぜそうなっているのか」という背景に根拠を与え、分析の説得力を高めます。
PEST分析

PEST分析とは、マクロ環境を分析するフレームワークです。環境の変化を棚卸しすることで、将来の市場成長率(縦軸)の見立てに客観的な根拠を与え、投資判断の精度を向上させます。
バリューチェーン分析

バリューチェーン分析では、事業活動を工程別に分解し、価値創造とコスト要因を特定できます。これにより、同じ象限に属する事業でも、どこを改善すれば利益が出るかが明確になり、具体的な改善策に直結します。
ポジショニングマップ

ポジショニングマップは、価格×品質、革新性×信頼性など、顧客価値軸で事業の相対位置を図示するものです。空白地帯(ホワイトスペース)の発見や、「問題児」の「花形」化戦略に直結します。
データを活用しての意思決定はロイヤリティ マーケティングへ
PPM分析は、市場の勢い(縦軸)と 相対的な強さ(横軸)で事業群の位置を整理し、資源配分をデザインするための羅針盤です。
ただしPPM分析単独では、事業間のシナジーや定性的な価値、新市場の不確実性は捉えきれません。
SWOT分析、3C分析、PEST分析、バリューチェーン分析などを重ね、数字と文脈の両輪で意思決定の質を高めることが肝要です。
PPM分析は、企業の持続的成長と収益性の底上げを後押しする、今もなお有効な戦略ツールといえるでしょう。
社内で分析担当の確保が難しい場合は、外部の専門家の活用も検討してみましょう。弊社では、丁寧なヒアリングからデータ解析まで一貫してご支援します。
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