コラム
2024-11-21
デプスインタビューとは?メリットやデメリット、調査の流れなどを解説
消費者の行動理由や本音を探りたいと思ったときに役立つのが、デプスインタビューです。しかし、やり方やコツがわからないまま実施すると期待した結果を得られません。そこで今回は、デプスインタビューのメリットやデメリット、流れについてわかりやすく解説します。
目次
デプスインタビューとは?
デプスインタビューは、調査員と調査対象者が1対1で対面し、60〜90分ほどの時間をかけてヒアリングを行う調査手法のことです。”Depth”とは英語で「深さ」を意味し、調査対象者と深くかかわることで、消費者の本音や潜在的なニーズを引き出せるという特徴があります。
一般的なアンケートでは、「どんな人にどのような傾向があるか」を調査できますが、行動の理由や感情までは把握できません。一方、デプスインタビューでは「なぜ商品を選んだのか」「使用時にどう思ったか」といった質問を通じて、アンケートでは得られない情報を収集できます。
デプスインタビューは定性調査の1つ
そもそもマーケティングリサーチは、数値化できるデータを収集して統計学的に調査する定量調査と、言葉や行動、感情など数値化できないものを調査する定性調査に大別できます。デプスインタビューは調査対象者の言葉を聞き取って調べるため、定性調査の一種です。
定性調査は定量調査だけでは見えない対象者の行動理由や感情を探るのに適しており、定量調査と組み合わせることで多角的な調査・分析を実現できます。したがって、単独ではなく、定量調査を行った上で実施するのが基本です。
定量調査と定性調査の違いについて詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
デプスインタビューのメリット
デプスインタビューには、他の調査方法にはない独自のメリットがあります。
対象者さえ気付かない潜在的なニーズを把握できる
デプスインタビューの最大のメリットは、対話を通じて対象者自身も気付いていない本音を発見できることです。通常のアンケートでは掘り下げられない質問ができ、グループインタビューと違って周囲に遠慮して自由に発言できないということもありません。
例えば商品を選んだ理由を聞いた時、「安いから」との回答があったとします。デプスインタビューでは「他の安い商品ではなく、なぜこの商品なのですか」といった掘り下げが可能です。内容を深めることで、「実はデザインにも惹かれた」などの理由が明らかになることがあります。
デプスインタビューで得られた貴重な洞察は、既存商品の見直しやマーケティング施策の改善に役立つでしょう。
対象者の意思決定のプロセスが明らかになる
デプスインタビューのもう1つの大きなメリットは、対象者の意思決定プロセスを詳細に把握できることです。消費者が商品を購入するまでの経緯や、サービスを選択する際の判断基準など、一連の流れを時系列で理解できます。
例えば、「この商品を知ったきっかけは何ですか」「購入を決めるまでにどんな情報を集めましたか」「最終的に購入を決めた理由は何ですか」といった質問を通じて、消費者の行動パターンや思考プロセスを明らかにできます。
消費者の意思決定のプロセスを理解することは、マーケティング戦略の改善に有効です。例えば、商品の認知段階では効果的な広告手法を選び、検討段階では必要な情報提供するなど、購買行動の各段階に適したアプローチを設計できます。
デリケートなトピックに適している
デプスインタビューは、デリケートなトピックや個人的な話題を扱う際に特に有効です。1対1の対話形式であるため、調査対象者は他人の目を気にせず、率直に自分の意見や感情を表現できます。
例えば、健康や金銭に関する話題、個人的な悩みや不満など、通常のグループインタビューやアンケートでは答えにくい質問でも、デプスインタビューなら深く掘り下げることが可能です。
調査員は、調査対象者との信頼関係を築きながら、徐々に核心に迫っていきます。「商品の気になる点はありますか」「改善点はどこですか」などの質問から始め、反応を見ながら「商品はご自身の肌の悩みを解決してくれましたか」といった具体的で個人的な質問に変えていきましょう。
対象者の自然な反応がわかる
デプスインタビューでは、対象者の自然な反応や感情を直接観察できます。これは、アンケート調査やオンライン調査では得られない貴重な情報源です。
例えば、商品について話す際の対象者の目の輝きや、特定の話題に触れたときの表情の変化などが見られたら、反応に応じて質問を変えたり、より深く掘り下げたりできます。
調査対象者の自然な反応に基づいて柔軟に対話を進めることで、より深い洞察が得られると、商品やサービスの改善において価値のある情報となるでしょう。
デプスインタビューのデメリット
デプスインタビューには多くのメリットがあると同時に、いくつかのデメリットも存在します。ここでは主なデメリットとして3つを紹介しましょう。
時間とコストがかかる
デプスインタビューの最大のデメリットは、時間やコストがかかることです。
1対1の対話形式であるため、多くの対象者から情報を収集するには、それだけ多くの時間が必要となります。例えば、1時間のインタビューを20人に実施する場合、インタビュー時間だけでも約20時間です。準備や移動、データの整理と分析にも時間を要します。
また、調査員を長時間拘束すると人件費が高くなり、調査対象者への謝礼も必要です。
意見が偏ることがある
デプスインタビューのもう1つのデメリットは、意見に偏りが生じる可能性があることです。サンプル数が限られているため、大多数の考えとはかけ離れたものになりやすく、市場の一般的な傾向を捉えるのには向いていません。
デプスインタビューで得られた情報はあくまで調査対象者の意見であり、市場全体の傾向ではないということを念頭に置いておきましょう。
結果がインタビュアーの力量に左右される
デプスインタビューの質が調査員の力量に依存してしまうこともデメリットです。熟練のインタビュアーは、調査対象者と良好な関係を築き、適切な質問によって深い洞察を引き出しますが、経験の浅いインタビュアーの場合、期待した結果を得られない可能性があります。
例えば、「商品のよいところは何ですか」という質問に対して、対象者が「使いやすいところです」と答えたとしましょう。経験豊富な調査員は「具体的には?」などと掘り下げていきますが、経験の浅い調査員は回答をそのまま受け取って次の質問に移ってしまう可能性があります。
デプスインタビューの活用例
デプスインタビューは、さまざまな場面で活用されています。ここでは、ビジネスでの一般的な活用事例として2つを紹介しましょう。
マーケティング施策の改善
デプスインタビューは、消費者の本音や潜在的なニーズを深く理解し、既存のマーケティング施策を見直し、より効果的な施策へシフトさせる際に有効です。例えば新しい広告キャンペーンを実施する場合、デプスインタビューを行うと下記のような情報が得られます。
デプスインタビューで得られる情報の例
・「面白い」「可愛い」など既存広告の印象
・価格やデザインなどの消費者が購買を決定する要素
・「他社よりパッケージが印象的」といった競合商品との比較
このような情報を収集すると、消費者が重視するポイントを広告のメッセージやデザインに取り入れることが可能です。デプスインタビューを通じて得られた深い洞察をマーケティング施策に反映させ、効果的な戦略立案につなげましょう。
ペルソナの設定
デプスインタビューは、ペルソナの設定にも役立ちます。ペルソナとは、企業の架空の顧客像です。年齢や性別などを大まかに設定するターゲットと異なり、価値観や趣味まで具体的に設定します。ペルソナの視点で考えることで、顧客視点でのマーケティング施策を実現可能です。
デプスインタビューを活用し、調査対象者の意思決定プロセスや行動パターンを深堀りすると、より精緻なペルソナを作成できます。
例えば、企業が既存アプリの改善のためにペルソナを設定するとしましょう。調査対象者の属性やライフスタイル、消費行動をデプスインタビューで調査すると、下記のようなペルソナを構築できます。
ペルソナの例
・名前:森川△美
・年齢:25歳
・性別:女性
・居住地:東京都渋谷区
・職業:大手出版社のアシスタント
・休日の過ごし方:友人とカフェ巡り
・情報収集:SNSメイン
・価値観:友人の評判を重視、安くておしゃれ
・アプリ:デザインの可愛さと操作の簡単さを重視し、安全性に敏感
アプリ開発のために上記のペルソナを活用すると、以下のような戦略立案が可能です。
ペルソナに沿ったマーケティング戦略の例
・UI/UXデザイン:シンプルで可愛らしい
・機能開発:SNS連携機能を強化
・マーケティング:インフルエンサーを活用したプロモーション
・プライバシーポリシー:個人情報の取り扱いを明確に説明
デプスインタビューを活用して作成されたペルソナは、単なる統計データよりも生き生きとしており、ユーザー中心の開発やマーケティング施策の実現に役立つでしょう。
デプスインタビューと似た手法との比較
デプスインタビューは、他の調査手法と比較するとどのような特徴があるのでしょうか。ここでは、デプスインタビューと混同しやすいグループインタビューとエスノグラフィー調査との比較を行います。理解を深め、目的や状況に応じて適切な手法を選択しましょう。
グループインタビュー
グループインタビューは、複数の対象者を集め、司会者の進行に沿って座談会形式で意見交換することで情報を集めるインタビュー手法です。デプスインタビューと比較すると、次のような違いがあります。
デプスインタビューとグループインタビューの比較
両者は個別の意見を深めるのか、広く意見を集めるのかという点で大きく異なるため、目的に応じて使い分けるとよいでしょう。
エスノグラフィー調査
エスノグラフィー調査は、調査対象者の自宅や職場など、本人が普段通り振る舞える環境で対象者の行動を観察する手法です。デプスインタビューと比べると、次のような違いがあります。
デプスインタビューとエスノグラフィー調査の比較
両者の大きな違いは、対象者が情報を言語化できるかどうかという点です。したがって、デプスインタビューはユーザー視点での既存商品の改善点を知りたいとき、エスノグラフィー調査は本人も把握していない潜在ニーズを探り、新商品の開発に役立てる場合などに活用されます。
両者は使い分けるだけでなく、連携も可能です。例えば、インタビューで対象者の既存商品への本音を引き出し、その後エスノグラフィー調査で観察すると、行動の背景について理解を深められます。
デプスインタビューの調査の流れ
デプスインタビューを効果的に実施するためには、適切な流れで行うことが不可欠です。ここでは、デプスインタビューの一般的な流れを5つのステップに分けて解説します。
①調査設計
デプスインタビューを左右するのが、最初のステップの調査設計です。調査の目的を明らかにし、何人くらいの人にどのくらいの期間、いくらの予算でデプスインタビューを行うのかについてしっかりと計画を立てましょう。
②対象者の選定
調査の目的に沿ってインタビューの対象者を選びます。デプスインタビューでは調査できる人数が限られるため、対象者の条件を整理した上で慎重に選定することが大切です。調査目的により適しているかどうかという観点から詳しい条件を決めましょう。
条件が決定したら、インターネットのアンケートなどで募集をかけます。条件が合わないにもかかわらず報酬目当てで応募するパターンを防ぐために、アンケート回答者に選定基準が伝わらないように工夫しましょう。
③インタビューフローの作成
デプスインタビューは臨機応変に対応する場面もありますが、充実したインタビューには大まかなフローの作成が欠かせません。限られた時間を有効活用でき、適切な質問を行えます。下記のような内容のフローを作り、デプスインタビュー当日の流れを頭に入れておきましょう。
インタビューフローに盛り込む内容
・インタビューの流れ
・質問の順番
・質問ごとの優先順位(外せない質問・できれば聞きたい質問など)
・時間の目安
④インタビューの実施
準備が整ったらいよいよデプスインタビューの実施です。基本的にはインタビューの計画やフローに従って進めますが、実施してみて質問の仕方や順番を変えた方がよい場合は途中で修正しましょう。
⑤データを分析して施策に役立てる
全てのインタビューが終了したら、情報を整理してレポートにまとめ、分析してマーケティング施策に役立てます。結果を可視化し、チームや社内で共有しましょう。
デプスインタビューを成功に導くコツ
最後に、デプスインタビューを成功させるための3つのコツについて解説します。
リラックスした雰囲気を演出する
対象者がリラックスして本音を話せる雰囲気を作り出すことは、デプスインタビューの成功に不可欠です。例として次のような方法があります。
リラックスした雰囲気の演出方法
・快適な環境(適切な室温、適切な部屋の明るさ、飲み物の提供など)
・アイスブレイク(天気や出身地など)
・丁寧で共感的な態度(協力へのお礼やちょっとした発言への相槌など)
オープンクエスチョンを活用する
オープンクエスチョンとは、「はい/いいえ」などの回答制限を持たせず、「◯◯についてどう思いますか」などの自由に回答できるように行う質問のことです。「正しい答えはない」「答えは1つでない」と思わせることで対象者は心地よく感じ、自由な発想で発言しやすくなります。
具体的には「なぜ」「どのように」といった言葉を含む質問をすることや、具体的な経験を聞くことを意識するとよいでしょう。
対話を心がける
デプスインタビューでは、単なる質問と回答の繰り返しではなく、対話を通じてインサイトを得ることが重要です。調査員が一方的に話したり、フロー通りに進めようとするあまり対象者の話を遮ったりすると、本音が引き出しにくくなります。
対象者が発言したら「それはなぜですか」「具体的にはどんなことですか」などと、対象者の発言に興味を持って反応し、内容を深めていきましょう。
ロイヤリティ マーケティングはデプスインタビューの調査設計からレポートまでフルサポートします
対話を通じて行動プロセスを深堀りできるデプスインタビューは、潜在ニーズを探るのに適した手法です。マーケティング施策を見直し、効果的に改善したいときに大いに役立つでしょう。
ただし、デプスインタビューはインタビュアーの力量に左右されるため、初めて実施する場合は準備にかなりの時間と手間を要する場合があります。また、得られた情報をデータとしてまとめ、適切に分析するにはデータ集計や分析に関する知識が必要です。
自社でリサーチや分析のノウハウを持った人材を確保するのが困難な場合は、リサーチ専門会社に相談するのもよいでしょう。
共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を運営する弊社は、約230万人の大規模な単独パネルを活用して企業のリサーチや分析をサポートしています。デプスインタビューも取り扱っており、調査設計から分析、レポート作成までワンストップでおまかせいただけます。
また、他にもグループインタビューや会場調査などさまざまなリサーチに対応可能です。リサーチのやり方やデータ活用の仕方にお悩みの方、初めてでも精度の高い調査を実現したい方は、お気軽にお問い合わせください。
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